研究発表:遠藤雅昭さん「レオン王国の霊廟・ロマネスク壁画に魅せられて」

2014年9月20日に行われた講座のなかで、会員の遠藤雅昭さんがレオンのサン・イシドロ教会の壁画について発表してくださいました。その一部をこちらでご紹介します。

  頭に焼き付いて離れないそんな絵に出会うときがあります。サンティアゴ

 巡礼路の要所だった古都レオンに、ロマネスク様式のサン・イシドロ教会が

 あります。その教会にあるレオン王国のパンテオン(王家の霊廟)の天井に

 描かれたフレスコ画。『羊飼いへのお告げ』に私は魅せられました。

                (中略)  

  キリストの降誕を大天使が羊飼たちに告げる場面(ルカ福音書)を

 表したものです。

  羊飼いは三人おり、そのうちのひとりは角笛を、ひとりはシュリンクス

 (牧神パンの笛)を奏でています。モーツアルトの歌劇「魔笛」で

 パッパゲーノが持っているパンフルートです。もう、ひとりは番犬に餌を

 やっている。家畜は、羊、山羊のほか牛もおり、丘の稜線が描き込まれ、

 大小の樹木も添えられています。羊飼いたちが実に生き生きと描かれています。

  大天使は立っていますが、動きがあります。神の世界から現れ

 「こんにちは、お話しがあります。」と羊飼いたちに明るく語りかけている

 感じがします。『羊飼いのお告げ』は、春の息吹や神の降誕の喜びを画面

 いっぱいに表し、春の祭典のようです。

  また、アーチの内輪には、12か月のそれぞれの月に、農民の働く情景が

 描かれています。この『農業カレンダー』については、勝峰先生が著作

 『イスパニア・ロマネスク美術』の中で解説されています。「9月の労働」は

 「葡萄の取り入れ」です。農民の働く姿は躍動的です。

  この時代に、領主ではなく、脇役にしかすぎない民衆の姿が壁画に登場する

 こと自体が、私には驚きでした。

  すっかりロマネスク絵画の虜になってしまいました。

  イスパニア・ロマネスク美術の特徴は、

 「鮮明な輪郭線と鮮やかな色彩で力強く表現している。」

 「自由闊達で、明るく、ユーモラスで、動きがある。」

 「民衆の生活描写が少なからず見出せる。」そして

 「キリスト教文化とキリスト教以前からある土着的な、そして異教的な文化が

  キリスト教文化と共存、融合している。」ように思いました。

   そして、その溢れるばかりの圧倒的なエネルギーを感じます。

   ロマネスク時代が約200年という短い期間に過ぎないのに、このような

  特徴がヨーロッパの広範囲に、突然のように現れたのです。

   私は、そこに時代を動かすような巨大なエネルギーが内在しているに違いない、

  それは「伝統の厚み」だと思ったのです。

   「伝統の厚み」とは、ケネス・クラークの『名画とはなにか』の中の言葉です。

  「理論については意見が一致しないことがあるが、名画の衝撃については驚くべき

  ほど意見が一致する。」と述べ、名画とは「一人の人間の才能による厚みではなく、

  大勢の人間がつくり上げた「伝統の厚み」である。」と結論づけています。

    サン・イシドロ教会の壁画そしてロマネスク美術の多くの作品は素晴らしく

   「名画」だと思います。ロマネスク美術の「伝統の厚み」がどのようなものかを

   探って見ようと考えました。

                 (後略)

 

*全文(pdf)は以下よりご覧ください。

「レオン王国の霊廟・ロマネスク壁画に魅せられて」遠藤雅昭(2014年9月20日)
leon_endo.pdf
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